ったのみで、四下《あたり》はまた闃《ひッそ》となって了った。ただ相変らず蟋蟀《きりぎりす》が鳴しきって真円《まんまる》な月が悲しげに人を照すのみ。
若《も》し其処のが負傷者《ておい》なら、この叫声《わめきごえ》を聴いてよもや気の付かぬ事はあるまい。してみれば、これは死骸だ。味方のかしら、敵のかしら。ええ、馬鹿くさい! そんな事は如何《どう》でも好いではないか? と、また腫※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《はれまぶた》を夢に閉じられて了った。
先刻《さっき》から覚めてはいるけれど、尚お眼を瞑《ねむ》ったままで臥《ね》ているのは、閉じた※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]越《まぶたごし》にも日光《ひのめ》が見透《みすか》されて、開《あ》けば必ず眼を射られるを厭《いと》うからであるが、しかし考えてみれば、斯う寂然《じっ》としていた方が勝《まし》であろう。昨日《きのう》……たしか昨日《きのう》と思うが、傷《て》を負ってから最《も》う一昼夜、こうして二昼夜三昼夜と経《た》つ内には死ぬ。何の業《わざ》くれ、死は一ツだ。寧《いっ》そ寂然《じっ》としていた方が好《い》い。身動《み
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