し万一《ひょっと》此儘になったら……えい、関《かま》うもんかい!
臥《ね》ようとすると、蒼白い月光が隈なく羅《うすもの》を敷たように仮の寝所《ふしど》を照して、五歩ばかり先に何やら黒い大きなものが見える。月の光を浴びて身辺|処々《ところどころ》燦《さん》たる照返《てりかえし》を見《み》するのは釦紐《ぼたん》か武具の光るのであろう。はてな、此奴《こいつ》死骸かな。それとも負傷者《ておい》かな?
何方《どっち》でも関《かま》わん。おれは臥《ね》る……
いやいや如何《どう》考えてみても其様《そん》な筈がない。味方は何処へ往ったのでもない。此処に居るに相違ない、敵を逐払《おいはら》って此処を守っているに相違ない。それにしては話声もせず篝《かがり》の爆《はぜ》る音も聞えぬのは何故であろう? いや、矢張《やッぱり》己《おれ》が弱っているから何も聞えぬので、其実味方は此処に居るに相違ない。
「助けてくれ助けてくれ!」
と破《や》れた人間離《にんげんばなれ》のした嗄声《しゃがれごえ》が咽喉《のど》を衝《つ》いて迸出《ほとばしりで》たが、応ずる者なし。大きな声が夜の空を劈《つんざ》いて四方へ響渡
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