うごき》がならぬなら、せんでも好《い》い。序《ついで》に頭の機能《はたらき》も止《と》めて欲しいが、こればかりは如何《どう》する事も出来ず、千々《ちぢ》に思乱れ種々《さまざま》に思佗《おもいわび》て頭に些《いささか》の隙も無いけれど、よしこれとても些《ちッ》との間《ま》の辛抱。頓《やが》て浮世の隙《ひま》が明いて、筐《かたみ》に遺る新聞の数行《すぎょう》に、我軍死傷少なく、負傷者何名、志願兵イワーノフ戦死。いや、名前も出まいて。ただ一名戦死とばかりか。兵一名! 嗟矣《ああ》彼《あ》の犬のようなものだな。
在りし昔が顕然《ありあり》と目前に浮ぶ。これはズッと昔の事、尤もな、昔の事と思われるのは是ばかりでない、おれが一生の事、足を撃れて此処に倒れる迄の事は何も彼《か》もズッと昔の事のように思われるのだが……或日町を通ると、人だかりがある。思わずも足を駐《とど》めて視ると、何か哀れな悲鳴を揚げている血塗《ちみどろ》の白い物を皆|佇立《たちどまっ》てまじりまじり視ている光景《ようす》。何かと思えば、それは可愛《かわい》らしい小犬で、鉄道馬車に敷かれて、今の俺の身で死にかかっているのだ。すると
前へ
次へ
全31ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ガールシン フセヴォロド・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング