鳴がする、頭が重い。両脚に負傷したことはこれで朧気《おぼろげ》ながら分ったが、さて合点の行かぬは、何故《なぜ》此儘にして置いたろう? 豈然《よもや》とは思うが、もしヒョッと味方敗北というのではあるまいか? と、まず、遡《さかのぼ》って当時の事を憶出してみれば、初め朧《おぼろ》のが末《すえ》明亮《はっきり》となって、いや如何《どう》しても敗北でないと収まる。何故と云えば、俺は、ソレ倒れたのだ。尤もこれは瞭《はき》とせぬ。何でも皆が駈出すのに、俺一人それが出来ず、何か前方《むこう》が青く見えたのを憶えているだけではあるが、兎も角も小山の上の此《この》畑《はた》で倒れたのだ。これを指しては、背低《せびく》の大隊長殿が占領々々と叫《わめ》いた通り、此処を占領したのであってみれば、これは敗北したのではない。それなら何故俺の始末をしなかったろう? 此処は明放《あけばな》しの濶《かつ》とした処、見えぬことはない筈。それに此処でこうして転がっているのは俺ばかりでもあるまい。敵の射撃は彼《あ》の通り猛烈だったからな。好《よ》し一つ頭を捻向《ねじむ》けて四下《そこら》の光景《ようす》を視てやろう。それには
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