るかな、些《ちッ》とも出来んわい。其儘で暫く経《た》つ。竈馬《こおろぎ》の啼《な》く音《ね》、蜂の唸声《うなりごえ》の外には何も聞えん。少焉《しばらく》あって、一しきり藻掻《もが》いて、体の下になった右手をやッと脱《はず》して、両の腕《かいな》で体を支えながら起上ろうとしてみたが、何がさて鑽《きり》で揉むような痛みが膝から胸、頭《かしら》へと貫くように衝上《つきあ》げて来て、俺はまた倒れた。また真の闇の跡先《あとさき》なしさ。

 ふッと眼が覚めると、薄暗い空に星影が隠々《ちらちら》と見える。はてな、これは天幕《てんと》の内ではない、何で俺は此様《こん》な処へ出て来たのかと身動《みうごき》をしてみると、足の痛さは骨に応《こた》えるほど!
 何《なに》さまこれは負傷したのに相違ないが、それにしても重傷《おもで》か擦創《かすり》かと、傷所《いたみしょ》へ手を遣《や》ってみれば、右も左もべッとりとした血《のり》。触《ふれ》れば益々痛むのだが、その痛さが齲歯《むしば》が痛むように間断《しッきり》なくキリキリと腹《はらわた》を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》られるようで、耳
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