《たより》ない呻声《うめきごえ》が乾付《からびつ》いた唇を漏れたばかり。
「やッ! こりゃ活《い》きとるンか? イワーノフじゃ! 来い来い、早う来い、イワーノフが活きとる。軍医殿を軍医殿を!」
瞬く間に水、焼酎、まだ何やらが口中《こうちゅう》へ注入《そそぎい》れられたようであったが、それぎりでまた空《くう》。
担架は調子好く揺れて行く。それがまた寝《ね》せ付《つけ》られるようで快い。今眼が覚めたかと思うと、また生体《しょうたい》を失う。繃帯をしてから傷の痛《いたみ》も止んで、何とも云えぬ愉快《こころよき》に節々も緩《ゆる》むよう。
「止まれ、卸《おろ》せ! 看護手交代! 用意! 担《にな》え!」
号令を掛けたのは我衛生隊附のピョートル、イワーヌイチという看護長。頗る背高《のッぽう》で、大の男四人の肩に担《かつ》がれて行くのであるが、其方へ眼を向けてみると、まず肩が見えて、次に長い疎髯《まばらひげ》、それから漸く頭が見えるのだ。
「看護長殿!」
と小声に云うと、
「何《なン》か?」
と少し屈懸《こごみかか》るようにする。
「軍医殿は何と云われました? 到底助かりますまい?」
「
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