落来る無数の蛆《うじ》は其処らあたりにうようよぞろぞろ。是に食尽《はみつく》されて其主が全く骨と服ばかりに成れば、其次は此方《こッち》の番。おれも同じく此姿になるのだ。
 その日は暮れる、夜が明ける、何も変った事がなくて、朝になっても同じ事。また一日を空《あだ》に過す……
 山査子《さんざし》の枝が揺れて、ざわざわと葉摺《はずれ》の音、それが宛然《さながら》ひそめきたって物を云っているよう。「そら死ぬそら死ぬそら死ぬ」と耳の端《はた》で囁《ささや》けば、片々《かたかた》の耳元でも懐しい面《かお》「もう見えぬもう見えぬもう見えぬ」
「見えん筈じゃ、此様《こん》な処《とこ》に居《お》るじゃもの、」
 と声高《こえだか》に云う声が何処か其処らで……
 ぶるぶるとしてハッと気が付くと、隊の伍長のヤーコウレフが黒眼勝の柔《やさ》しい眼で山査子《さんざし》の間《あいだ》から熟《じっ》と此方《こちら》を覗いている光景《ようす》。
「鋤《すき》を持ち来い! まだ他《ほか》に二人おる。こやつも敵ぞ!」という。
「鋤《すき》は要らん、埋《うめ》ちゃいかん、活《いき》て居るよ!」
 と云おうとしたが、ただ便
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