「足へん+宛」、第3水準1−92−36]死《もがきじに》に死ぬことを風の便《たより》にも知ろうようがない。ああ、母上にも既《も》う逢えぬ、いいなずけのマリヤにも既《も》う逢えぬ。おれの恋ももう是限《これぎり》か。ええ情けない! と思うと胸が一杯になって……
 えい、また白犬めが。番人も酷《むご》いぞ、頭を壁へ叩付けて置いて、掃溜《はきだめ》へポンと抛込《ほうりこ》んだ。まだ息気《いき》が通《かよ》っていたから、それから一日苦しんでいたけれど、彼犬《あのいぬ》に視《くら》べればおれの方が余程《よッぽど》惨憺《みじめ》だ。おれは全《まる》三日苦しみ通しだものを。明日《あす》は四日目、それから五日目、六日目……死神は何処に居《お》る? 来てくれ! 早く引取ってくれ!
 なれど死神は来てくれず、引取ってもくれぬ。此凄まじい日に照付られて、一滴水も飲まなければ、咽喉《のど》の炎《も》えるを欺《だま》す手段《てだて》なく剰《あまつ》さえ死人《しびと》の臭《かざ》が腐付《くさりつ》いて此方《こちら》の体も壊出《くずれだ》しそう。その臭《かざ》の主《ぬし》も全くもう溶《とろ》けて了って、ポタリポタリと
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