は書けないと思い、マコーレーの文を見てとてもこれを学ぶことはできぬと考え、山陽の文を見てとてもこういうものは書けないと思い、ドウしても私は文学者になることはできないといって失望する人がある。文学者は特別の天職を持った人であって文学はとてもわれわれ平凡の人間にできることではないと思う人があります。その失望はどこから起ったかというと、前にお話しした柔弱なる考えから起ったのでございます。すなわち『源氏物語』的の文学思想から起った考えであります。文学というものはソンナものではない。文学というものはわれわれの心のありのままをいうものです。ジョン・バンヤンという人はチットモ学問のない人でありました。もしあの人が読んだ本があるならば、タッタ二つでありました、すなわち『バイブル』とフォックスの書いた『ブック・オブ・マータース』( "Book of Martyrs" )というこの二つでした。今ならばこのような本を読む忍耐力のある人はない。私は札幌にてそれを読んだことがある。十ページくらい読むと後は読む勇気がなくなる本である。ことにクエーカーの書いた本でありますから文法上の誤謬《ごびゅう》がたくさんある。し
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