ることはありません。しかしその比較的に少きこの害すらダルガスの事業によって除かれたのであります。
かくのごとくにしてユトランドの全州は一変しました。廃《すた》りし市邑《しゆう》はふたたび起りました。新たに町村は設けられました。地価は非常に騰貴《とうき》しました、あるところにおいては四十年前の百五十倍に達しました。道路と鉄道とは縦横《たてよこ》に築かれました。わが四国全島にさらに一千方マイルを加えたるユトランドは復活しました、戦争によって失いしシュレスウィヒとホルスタインとは今日すでに償《つぐな》われてなお余りあるとのことであります。
しかし木材よりも、野菜よりも、穀類よりも、畜類よりも、さらに貴きものは国民の精神であります。デンマーク人の精神はダルガス植林成功の結果としてここに一変したのであります。失望せる彼らはここに希望を恢復しました、彼らは国を削《けず》られてさらに新たに良き国を得たのであります。しかも他人の国を奪ったのではありません。己れの国を改造したのであります。自由宗教より来る熱誠と忍耐と、これに加うるに大樅《おおもみ》、小樅《こもみ》の不思議なる能力《ちから》とによりて、彼らの荒れたる国を挽回《ばんかい》したのであります。
ダルガスの他の事業について私は今ここに語るの時をもちません。彼はいかにして砂地《すなじ》を田園に化せしか、いかにして沼地の水を排《はら》いしか、いかにして磽地《いしじ》を拓《ひら》いて果園を作りしか、これ植林に劣らぬ面白き物語《ものがたり》であります。これらの問題に興味を有せらるる諸君はじかに私についてお尋ねを願います。
* * * *
今、ここにお話しいたしましたデンマークの話は、私どもに何を教えますか。
第一に戦敗かならずしも不幸にあらざることを教えます。国は戦争に負けても亡びません。実に戦争に勝って亡びた国は歴史上けっして尠《すくな》くないのであります。国の興亡は戦争の勝敗によりません、その民の平素の修養によります。善き宗教、善き道徳、善き精神ありて国は戦争に負けても衰えません。否《いな》、その正反対が事実であります。牢固《ろうこ》たる精神ありて戦敗はかえって善き刺激となりて不幸の民を興します。デンマークは実にその善き実例であります。
第二は天然の無限的生産力を示します。富は
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