およそ文章《ぶんしょう》では書きあらわせないような、まことに愛《あい》すべき、一|種《しゅ》特別《とくべつ》な想像力をもっていたのだ。母は家庭向《かていむ》きの奥《おく》さんという性《たち》の人で、家《うち》の中の用事にかかりっきりだった。しかし、彼女《かのじょ》のものの考え方には、どことなく面白《おもしろ》いところがあったので、家《うち》の中《なか》のつまらない仕事《しごと》もそのために活気《かっき》づき、潤《うるお》いが生《しょう》じた。母は、ストーヴや鍋《なべ》や、ナイフやフォークや、布巾《ふきん》やアイロンや、そういうものに生命《いのち》を吹《ふ》きこみ、話をさせる術《じゅつ》を心得ていた。つまり彼女は、たくまないお伽話《とぎばなし》の作者《さくしゃ》だった。母はいろいろなお話《はなし》をして、僕《ぼく》を楽《たの》しませてくれたが、自分《じぶん》ではなんにも考え出《だ》せないと思っていたものだから、僕の持っていた絵本《えほん》の絵《え》を土台《どだい》にしてお話《はなし》をしてくれたものだ。
これから、その母の話《はなし》というのを一つ二つ紹介《しょうかい》するが、僕は出来
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