しています。そうして、そういう恰好《かっこう》をしているので、なんだか素晴《すば》らしくみえます。ベルナールとロジェとジャックとマルセルは、それを追《お》いかけはじめます。エチエンヌのことも、真黄色《まっきいろ》な綺麗《きれい》な道のことも忘れてしまいます。お母《かあ》さんとのお約束《やくそく》も忘《わす》れてしまいます。もう四人は草原《くさはら》の中へはいっています。しばらくすると、草が深《ふか》く茂《しげ》っている柔《やわら》かい地面《じめん》に、足がめり込《こ》んでいくのがわかります。もう少し行くと、膝《ひざ》のところまで泥《どろ》の中にはまり込《こ》みます。草で見えなかったのですが、そこは沼になっていたのです。
 四人は、やっとこさでそこから足をひきぬきました。靴《くつ》も、靴下《くつした》も、腓《ふくらはぎ》も真黒《まっくろ》です。緑の草原《くさはら》の精《せい》が、いいつけを守《まも》らない四人の者に、こんな泥《どろ》のゲートルをはかせたのです。
 エチエンヌはすっかり息《いき》を切らして四人に追《お》いつきます。四人がそんなゲートルをはかされているのを見ると、喜《よろこ》んでいいのか、悲《かな》しんでいいのかわからないような気持《きもち》です。そこで、大きい人や強《つよ》い人には大変《たいへん》な災難《さいなん》が降りかかって来《く》るということを、無邪気《むじゃき》な頭の中でいろいろと考《かんが》えてみます。ゲートルをはかされた四人の方《ほう》は、しおしおとひっかえします。だって、そんな恰好《かっこう》をして、お友《とも》だちのジャンのところへ行《い》けるはずがないでしょう? 四人がお家へ帰《かえ》ったら、みんなのお母《かあ》さんは、その脚《あし》をごらんになって、四人が悪《わる》いことをしたということがちゃんとおわかりになるでしょう。反対《はんたい》に、小《ちい》さなエチエンヌの清浄無垢《せいじょうむく》なことは、その薔薇《ばら》いろの腓《ふくらはぎ》に、後光《ごこう》のように現《あらわ》れているでしょう。

[#地から3字上げ]挿絵 大野隆徳



底本:「日本少国民文庫 世界名作選(一)」新潮社
   1998(平成10)年12月20日発行
底本の親本:「世界名作選(一)」日本少國民文庫、新潮社
   1936(昭和11)年2月8日
※大野隆徳
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