陛下、陛下は御隣邦のカンデエケの女王に恋をしていらつしやるさうでございますね。其方はわたくしより美しうございますか。※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]をおつきになつては嫌でございますよ。』
『あなたより美しい?』王はバルキスの足下に身を伏せて叫んだ。『そんな事がある訣はありません。』
『さう? それなら其方のお眼は? 其方のお口は? 其方のお色つやは? 其方のお喉は?』女王は口を絶たない。
 そこでバルタザアルは両腕を女王の方へのばしながら『寡人にあなたの頸に落ちた小さな羽を下さるなら、寡人は其代に寡人の王国の半を差上げる。あの賢いセムボビチスも宦官のメンケラも差上げる』とかう叫んだ。
 けれども女王は座を立つて、冴々した笑ひ声と共ににげて仕舞つた。魔法師と宦官とがかへつて来た時に、王は何時になく深い物思に沈んでゐた。
『陛下、都合のよい商業上の条約をお結びになりましたか』セムボビチスはかうたづねた。
 其日、バルタザアルはシバの女王と晩餐を共にして、椰子の酒を飲んだ。一緒に食事をしてゐるとバルキスが、『それではカンデエケの女王が私ほど美しくないと云ふのはほんたうでござ
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