いますか』とたづねた。
『カンデエケの女王はまつ黒です』とバルタザアルが答へた。
 バルキスは意味ありげにバルタザアルを見た。
『黒くつても不器量とは限りませんわ。』
『バルキス!』
 王はかう叫びながら、二言と云はずに女王を抱きしめた。王の唇に圧されて、女王の頭は力なくうしろへ下がるのである。けれども王は女王が泣いてゐるのを見て、甘つたるい、小さな声で話しかけた。乳母が乳のみ児にものを云ふ時のやうな口調である。王は女王を『わが小さき花』と云つたり『わが小さき星』と云つたりした。
『どうして泣くのです? 泣きやむ様にするには何をしなければならないと云ふのです? したい事があるなら仰有い。何でも聞いてあげます。』
 女王は泣きやんだ。けれどもまだ思に沈んでゐる。王は長い間女王に其願を打明けてくれと願つた。其揚句にやつと女王がかう云つた。
『わたくしは怖と云ふ事を知りたいのでございます。』
 バルタザアルには解し兼ねた様に見えた。そこで女王は是迄久しい間、何か未知らぬ危険に出あひたいと思つても、シバの人民と神々とが見張つてゐるので、遇ふ事が出来ないと云ふ事を話してくれた。
『それでも』と女
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