を見上げて怒罵を浴せてゐた。
 何時? 何處から? どうして? その足は歩きつゞけて來たゞろう。その足は、都會に幸福を求めていつた父の足だ、ブルジョアジイが噛んで吐き出すやうな食物を求める爲に、生涯の血と汗とを拂はなければならないあの父と子供の足だ!
 今に今にあの足は、ビルヂングの鐵骨の上から立ち上つて、何千何萬何億もの足と一緒に、全世界の軍隊よりも[#「よりも」は底本では「よ も」と欠字]歩調を合せて、一つの行進曲を奏するだろう。私の頭の上では、矢ッ張り激しく鋲締機が鳴り喚いてゐる。
 ……私は一體、睡つてゐるのか、覺めてゐるのか‥‥‥‥。



底本:「解放10月号」解放社
   1926(大正15)年10月1日発行
入力:林幸雄
校正:大野裕
2001年1月17日公開
2001年1月18日修正
青空文庫作成ファイル:
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