でくれた。彼は若いやさしい父だつた。
「お父つあん、お前がこの土地を見切つて東京へ行ぐ氣にさなれば、子供等もおら[#「おら」に傍点]もどんなに助かるか知れやしねえ。お前が出てくりや直ぐにでも××工場へ入れるやうにしといてやると×さんもいつてるでなえか、それに彼處は仕事も樂だし社宅もくれべえつて話だに‥‥‥」
彼女は幾度も寡默な夫を唆してゐた。そして間もなく、夫や子供達をひつ浚ふやうにして東京へいつてしまつた。その後、私は一度も彼等育てゝくれた親にも乳きやうだいにも逢はない。やつぱり彼等は煉獄から煉獄への道を踏み迷つてゐるだろう。
鐵骨ばかりのビルヂングの下で二人の男が上を見上げながら話してゐた。
「何てえ鈍間な野郎だッ、建築つて奴あ、一度ケチがつきやあがると、それからそれへと縁起が惡くつて、碌なこたありやあしね、危險なこたあ解り切つてるのに、餘ッ程、ドヂな野郎ぢやねえか‥‥‥」
「何でもふだんから俺あ、のろま[#「のろま」に傍点]な野郎だとおもつてた‥‥‥」
詰襟の服にゲートルを捲いてる技師らしい男と、アルパカのもぢりみたいなものを、ふわりと上から羽織つた親方らしい男と、鉛色の蹠
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