い封緘ハガキだった。
表には、市ヶ谷××町××番地池田方、青木みを様とあった。裏には、山崎二郎。
――やっぱりそうだ! 彼女は一しんにその手紙を読んだ。毛筆で細かく一ぱいに書いてある。達者過ぎて読みにくい字だった。飛び飛び読んで行った。
「今度、君は職場が変わるそうだが、止むを得ない事情のない限り、余り度々変わらない方がいい。そうして成《なる》べく皆と仲よくつきあって、好い友人を沢山拵えてくれ、そのうち段々現在の環境を脱け出すようにすることだ。――兄さんにはあまり楯ついちゃいけない、彼は病人だから。その人がいくら動くのを好まなかった処で、すべての情勢は決して彼を動かさずにはいないのだ。それからもし、いってもいいのだったら、あのやさしいお母さんに俺からよろしくとつたえてくれ。」
彼女は涙を一ぱい[#底本では「一ばい」と誤記]溜めてそれを読んだ。
あの蝙蝠《こうもり》のような暗い男の何処に、こんな優しい愛情があったのだろう――
終わりの方には、何の本を差入れてくれとか、汚れたものを宅下げしたとか書いてあった。
それで山崎が何処にいるかということが、母親にも大てい解った。
みを
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