めている兄の方も、たまらなく、可哀想になった。
そのことのあった翌朝、母親が眼を覚ました時は、みを子の寝床は空ッぽだった。何時間経っても帰って来ない。
娘は行ってしまったのだ――そう気がついた瞬間、母親の眼を掠《かす》めたものは、山崎という青年の姿だ! だがその男は何処《どこ》に住んでいるのか、さっぱり見当もつかなかった。
そのうちに一ケ月余り経った。
土砂降りの日があると、翌日はまた夏のようにあつい日があった。方々で出水や崖くずれの噂が高かったが、みを子の消息などは少しも知れなかった。母親は一刻も娘のことが忘れられなくて、その日その日の天候と一緒に、荒れ狂うような気持ちだった。
するとある日、池田まさ――という知らない人から一通の手紙が来た。彼女は慄える手で封を切った。
前略、みを子氏こと山崎氏の関係にて検挙され、その後行方不明の処、昨日Y署に留置されていることが、やっと解りました。早速Y署へ、本人引き渡しを交渉されたく願います。家族の方が行かれるのが、一番都合よろしいと存じます。早々。
悦びと驚きと、彼女の頭は混乱した。直ぐ仕度をして出掛けた。市電を下りて駈け込むよ
前へ
次へ
全17ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
若杉 鳥子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング