方へ声をかけてから、
「池田さんはいま洗濯してますから、上って待っていて下さい。」
台所で水を使う音がしていた。
彼女は、骨のはみ出した椅子に腰かけて周囲を見廻した。
三畳と八畳と二間ぶちぬいた真ン中に、大きな卓子が二つ頑ばっていて、眼鏡をかけた先刻の女が、傍目もふらずぺンを動かしてる。
彼女の腰かけている正面には、古本屋の倉庫のように、ズラリと本が並んでいる。横文字のも、おそろしくむずかしそうなのも、また文学書のようなのもあった。
しかし、まだもっと彼女を不思議がらせるものがあった。室の一隅の壁には、下から五六段ばかりの高い棚があって、質屋のように沢山の着物と帽子が載せてある。
此処は一体何をする処なんだろう――と彼女は頻りと考えていた。
「私、池田です。」
そこへまさ子が朝鮮服のようなものを着て出て来た。眼のくりッとした娘だった。
彼女はまさ子にくどくどと挨拶してから、[#底本では、この行頭の1字下げなし]
「あの、みを子は、亀戸の方にいるってことでございますが、それ本当でござんすかしら………」
「みをさんですか? とても勇敢にやっているんですよ。」
まさ子は子供
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