彼女こゝに眠る
若杉鳥子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)荊棘《いばら》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一|緒《しよ》に

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)さむ/″\と光つてゐた。
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)髭《ひげ》[#底本では「髮」と誤記]さへ
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 その夜《よ》の月《つき》は、紺碧《こんぺき》の空《そら》の幕《まく》からくり拔《ぬ》いたやうに鮮《あざ》やかだつた。
 夜露《よつゆ》に濡《ぬ》れた草《くさ》が、地上《ちじやう》に盛《も》り溢《あふ》れさうな勢《いきほ》ひで、野《の》を埋《うづ》めてゐた。
『お歸《かへ》んなさい、歸《かへ》つて下《くだ》さい。』
『いえ。私《わたし》はもう歸《かへ》らないつもりです。』
『どこまでひとを困《こま》らせようといふんです。あなただつて子供《こども》ぢやああるまいし。』
 草《くさ》の中《なか》に半身《はんしん》を沒《ぼつ》して、二人《ふたり》はいひ爭《あらそ》つてゐた。男《をとこ》は激《はげ》しく何《なに》かいひながら、搖《ゆ》すぶるやうに女《をんな》の肩《かた》を幾度《いくど》も小突《こづ》いた。
『いえ、私《わたし》はあなたが何《なん》と仰有《おつしや》つても、あなたに隨《つ》いてゆくのです。それより他《ほか》に私《わたし》の行《ゆ》くみちはないんです。』
 女《をんな》は嶮《けは》しい男《をとこ》の眼《め》を眼鏡《めがね》の中《なか》に見《み》つめながらいふのだつた。
『馬鹿《ばか》なツ、隨《つ》いてゆくつたつて、何處《どこ》へ行《ゆ》くといふんです。』
『何處《どこ》までゝも――けれど、それがもしあなたの御迷惑《ごめいわく》になるとでも仰有《おつしや》るなら、私《わたし》は此處《ここ》でお訣《わか》れします。でも、家《うち》へはもう歸《かへ》らない覺悟《かくご》です。』
 女《をんな》は少《すこ》し冷《ひや》やかにいひ放《はな》つと、蒼《あを》ざめて俯向《うつむ》いた。二人《ふたり》の間《あひだ》に、暫《しばら》く沈默《ちんもく》が續《つゞ》いた。
 默《だま》つて女《をんな》を凝視《ぎようし》してゐた男《をとこ》は、前《まへ》とは
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