全然《ぜんぜん》異《ちが》つた柔《やさ》しさでいつた。
『ね、解《わか》つて下《くだ》さい。僕《ぼく》は塒《ねぐら》さへ持《も》つてゐない、浮浪人《ふらうにん》に等《ひと》しい男《をとこ》なんですよ。』
『知《し》つてます、そんなこと。』
『それにです、明日《あす》どうなるかも解《わか》らない體《からだ》なんです。』
『みんな、よく私《わたし》は解《わか》つてゐるんです。』
『今夜《こんや》あなたのお父《とう》さんが、僕《ぼく》を罵倒《ばたう》して追《お》ひ出《だ》したのも、親《おや》として無理《むり》なことではありません。全《まつた》く僕《ぼく》といふ男《をとこ》は、あなたを何《なに》ひとつ幸福《かうふく》にしてあげる事《こと》なんかできない人間《にんげん》なんですから……』
『ぢやあ、あなたは私《わたし》を輕蔑《けいべつ》してらつしやるんだ。』
『なにいつてるんですツ』
『だつてあなたは、私《わたし》がやつぱし、父《ちゝ》のいふ意味《いみ》の幸福《かうふく》な結婚《けつこん》を求《もと》め、さうしてまた、それに滿足《まんぞく》して生《い》きてられる女《をんな》だとしか思《おも》つてない……』
『さうぢやない、さうぢやないが……』
『いえ、あなたは、私《わたし》といふ女《をんな》が、あなたの足手纒《あしてまと》ひになる厄介《やくかい》な女《をんな》だと思《おも》つて、その癖《くせ》に今《いま》まで……』
『昂奮《こうふん》しないでお聽《き》きなさいツ。ではこれから自分達《じぶんたち》の行《ゆ》く道《みち》が、どんなに嶮《けは》しい、文字《もじ》通《どほ》りの荊棘《いばら》の道《みち》だつてことが、生々《なま/\》しい現實《げんじつ》として、お孃《ぢやう》さん、ほんとにあなたにわかつてゐるんですか……』
彼等《かれら》の爭《あらそ》ひ[#底本ではルビは「あら」と誤記]は、際限《はてし》もなく續《つゞ》いた。さうして夜《よ》が更《ふ》けて行《い》つた。
……だがその夜《よ》始《はじ》めて、彼女《かのぢよ》は戀人《こひびと》の激《はげ》しい熱情《ねつじやう》に身《み》を投《とう》じたのだつた。
彼女《かのぢよ》が、戀人《こひびと》の片山《かたやま》と一|緒《しよ》に生活《せいくわつ》したのは、僅《わづか》かに三ヶ|月《げつ》ばかりだつた。彼《かれ》がその屬《ぞく
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