《かのぢよ》は毎晩《まいばん》ぐつしよりと、寢汗《ねあせ》をかいて眼《め》をさました。寢卷《ねまき》は濡《ぬ》れ紙《がみ》のやうに膚《はだ》にへばりついてゐた。
その日《ひ》も、朝《あさ》早《はや》く彼女《かのぢよ》は起《お》き上《あが》らうとしたが、自分《じぶん》にどう鞭《むち》うつて見《み》ても、全身《ぜんしん》のひだるさ[#底本ママ]には勝《か》てなかつた。立《た》ち上《あが》ると激《はげ》しい眩暈《めまひ》がした。周圍《しうゐ》がシーンとして物音《ものおと》がきこえなくなつた。體《からだ》はエレベーターのやうに、地下《ちか》へ地下《ちか》へと降下《かうか》してゆくやうな氣持《きもち》だつた。そして遂《つひ》に彼女《かのぢよ》は意識《いしき》を失《うしな》つて了《しま》つた。
間《ま》もなく、K夫人《ふじん》は間《あひだ》の襖《うすま》[#ルビは底本ママ]を開《あ》けて吃驚《びつくり》した。瞬間《しゆんかん》、自殺《じさつ》かと狼狽《らうばい》した程《ほど》、彼女《かのぢよ》は多量《たりやう》の咯血《かくけつ》の中《なか》にのめつてゐた。
然《しか》し、夫人《ふじん》は氣《き》を鎭《しづ》めて、近《ちか》くにゐる同志《どうし》の婦人達《ふじんたち》を招《よ》び集《あつ》めた。近所《きんじよ》から醫師《いし》も來《き》て、兎《と》も角《かく》應急手當《おふきふてあて》が施《ほどこ》された。
病氣《びやうき》は急激性肺勞《ギヤロツピングコンザンプシヨン》と診斷《しんだん》された。
然《しか》しその時《とき》の周圍《しうゐ》の事情《じじやう》は、病人《びやうにん》をK氏《し》の家《うち》に臥《ね》かして置《お》く事《こと》を許《ゆる》さないので、直《す》ぐに何處《どこ》へか入院《にふゐん》させなければならなかつた。
だが、入院《にふゐん》するとしても、誰一人《たれひとり》入院料《にふゐんれう》などを持合《もちあは》してゐる筈《はず》がないので、施療《せれう》患者《くわんじや》を扱《あつか》ふ病院《びやうゐん》へ入《い》れるより仕方《しかた》がなかつた。處《ところ》で一|番《ばん》先《さき》に、市《し》の結核《けつかく》療養所《れうやうじよ》へ交渉《かうせふ》して見《み》たが、寄留屆《きりうとゞけ》がしてないので駄目《だめ》だつた。そのうちにも、病人《びや
前へ
次へ
全9ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
若杉 鳥子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング