いけない。戦闘的な労働者を見る眼をもってKを見ればもう、全然問題にはならない。だが[#底本では「だか」と誤植]兎に角彼は左翼運動に興味を持っている心掛けのよい紳士なのだ。ポケットに資本論を突っ込んで銀座をブラついて歩いたって咎めるわけにはいかない。Hについては問題にする方が間違っている。彼等にはそのつもりで交際してゆき給え。「宅下げ」は厨川白村二冊、「ドイツ語動詞変化表」の一冊。洗濯の事は心配しなくてもいいよ。監獄に来てまで毎日、「洗いたてのシャツ」をという約束の実行を迫る程俺も贅沢ではない。先月一日に城東道子という人が差し入れてくれた。僕にも見当がつくが、君が知っていたらよろしくいってくれ。
 俺のようにロクな仕事もしないでトッ捕まって不生産的な別荘生活をしているものにも、外の諸君が色々心配していてくれてることを思うと、赤面しないわけにはいかない。Aがまるで、シンボリストのような手紙をくれた。はっきり意味は解らないが、都会の騒音と歴史の機関車の驀進する轟音とを感じる事ができた。新しい革命的現実的象徴主義の芸術が、こんな処から発生しやしないか等と、馬鹿なことを考えた。――誰かホイットマ
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