う。君の不足な生活費から搾取するのもいやだ。等々々だから何でもいいから成《なる》べく実際的なものを入れてくれればいい。小説はこの頃余り読みたくないよ。よっぽど面白いのでなければ。「西部戦線」は面白くあったし、それに少し沈滞していた食欲を恢復させてくれたのは有り難かった。兵隊が書いた本だけあって、食うことばかり書いてあるんだもの。ベーコンや豌豆やチーズなんか盛んに出てくるじゃねえか、しかも、なかなか、うまそうに書いてある。ではまた来週!

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 手紙を、五月になってから二つ受け取った。第三信というのと第四信とである。
 ゴールキーの小説のような街で君が生活してること、めし屋で食事をすること等々、はなはだ愉快ではあったが、もうそんなことは当然すぎる話になってしまわなければならないぜ。現代支那語講座を受け取った。しかし、あれは毎月つづくらしいが、後はどうなんだろう。発音は此処にいては到底物になるべくもない。だが読むだけなら、字引さえあれば全くゾーサないことだ。一体この牢屋で読めるような「現代支那語」の書物が日本で発行されてるかしら? 誰かに聞いて見てくれ。ユーデット其の他宅下げした。今ドイツ語はトーマス・マンの短編を読んでる。物理の本はドイツ文典を宅下げした後で入れてくれ。今、満員だ。
 Sはまったく真面目な人だよ。むしろどっちかと云えばリゴリストでさえある。君にとって見当がつかないというのは、多分、向こうでも、君に対して態度がはっきり定められないで困ってるからなのであろう。つまり、子供として取り扱っていいか――大人として待遇していいかが――僕にはそう思えるのだが。それから僕が******の残滓をもっていたという話はどうも承認しかねるね。僕が何か間違いをやったということの原因は決して**の残滓ではなくて他のことに原因してるようだ。一口に**といっても、**を排撃するにしても、その歴史的役割や功禍を正しく批判しなければいけない[#底本では「しなけれいけない」と誤記]。昔の**は昔の**より仕事をしたし**的でもあった。それがどうして、***の列中に移行したかを、よく理解していなければアナを批判することは出来ない。
 此処では「人」という雑誌を売っている。見ると村山貯水池の防空施設の話や、軍縮の話等が出ている。又夜になるとよく機関銃の演習が聞こえて来る。そんな
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