ことが******のことを色々と考えさせる。運動の時間はずい分有効に用《つか》っている。運動場の廻りを百回づつ走っているよ。では又来週!

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 此の間、面会の時の話は(何のことだか一こう見当もつかないが)要するに誰かが何か君の悪口を云って来ても、それについて煩わされることはないということ、それは充分に承知してるから心配することはないよ。まだ誰もそうしたことを云っては来ないし、又云って来た処で僕には問題が君の個人的な事柄に関する限り、君の云うことが先ず第一に信じられるのだから。次に青バスの事は如何にも残念だった。しかしすぐに他の口があったことは何よりだ。君の労働への進出については、僕にして見れば相当に感激もしているしほめたくもあるのだが、今あんまり口を極めて賞賛してしまうと、直ぐ二三ヶ月してから(そんなこともないだろうが)すっかりヘタバッテしまうようなことになるとすると、君はその時、余計恥ずかしい思いをしなければならないから、今は余りホメないよ。
 よほどの事のない限り、ちょいちょい転職してはいけない。そんな風だと人間までが散漫な性格に変わってしまうから――亭主の義務が命ずる所に従って説教しておくが、近頃|閑《ひま》になったせいか何かしら説教めいたことを口走る癖がついたのに自ら呆れている。まるでインキョの如く! お母さんはどうしてるかね。おばあさん[#底本では「あばあさん」と誤記]は眼鏡がガタつく程やせてしまったと云う話だがどうなんだ。
 終わりに臨んで余り喧嘩をしないことを勧告しておく。必要な喧嘩ならどうしてもしなければならないし、又、気を強く持つことは今の君には絶対必要なのだが、しかし君は軍鶏《しゃも》ではなくて、俺のオカミさんなんだからな。

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 まるで君が写真をうつす時のように少しスマシて書いたらしい手紙を受け取った。それによると、尊敬すべき俺のオカミさんは、「四日間の労働体験」を誇って(誇ってるわけでもないだろうが)いるようだ。勿論それは立派な体験には異《ちが》いない。その点には異議はないが、「体験」も四日間位だと、それは却って「如何に体験が少ないか」と云うことの証明として、より多く役立ちはしないかね。だが、今はもう四日間を十倍した以上の体験を得ている筈だし、俺が出る頃には、それこそまるっきりプロレタリヤになっていることだ
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