ろうな。今、君は余計なことを考える必要はないから、なるべく沢山仲のいい友達を作るようにしなければならない。つまらない活動写真を一緒に見に行ったり出来るだけ親切に交際《つきあ》ったりして。――そうしてプチブル的な環境から次第に完全に絶縁してしまうようにしてくれ。
 仕事はどんなことがあっても、チョイチョイ変えないようにしてくれ。そうすると何にもならないばかりか、変にルンペンな癖がついてしまうから。――勿論一時的なつもりではなく、今の決心なり実践なりは永久的なものであろうことは、俺も固く信じているし、信頼してもいるのだが。モップル(1)に行ったら、土岐哀果の歌集「空を仰ぐ」と「現代支那語講座」が宅下げしてあるから頼むよ。――俺の手紙の字はまた大分大きな字になってしまった。そのうち小さな字でウンと色々なことを書くからカンベンしてくれ。俺も出たら「労働しろ」という君の勧告は、その原則は、勿論賛成なんだが、俺をやとう工場もないだろうし、俺は労働していない方が、社会的に有用な人間ではないかね? 手紙よこせ。では失敬。

       8

 子犬と食器を一緒にしているなんて、汚ねえからよしな。――
 さて俺の方は実に、実に相変わらずだ。此の間の君の手紙は少し「令女界」だったね。(一々色々な批評はするが、一々君のように気にしていてはいけない。口が滑るばかりだから)そうしてあの手紙から想像される君の生活は、何だか馬鹿に淋しそうだったので、ひどく気の毒になったが、しかしそんなに気にすることもないらしいのを、あの同じ手紙の最後の方で知ったので安心した。「個人的な感情」などを余りかえりみないで、一生懸命やってくれ。実際この頃は痛切にそのことを感じているのだ。君の手紙にあるように「七年」でも或いは「十五年」でも、僕達にとっては、少しも「元気」に関係しはしない。いづれにしても…………………。
 それから僕の「病気」については心配しないでほしい。今形勢を見ている。僕だって体の大切なことは知っているから、その必要を認めればそのようにする。君の手紙にある玉井ドクトルの親切な忠告もまだその必要はない。モルガンの「古代社会」と「ドイツ新聞」とそれから、「鼠色寝間衣」なるものを宅下げしたからたのむ。支那語は辞書を購求していよいよ本気でやることになった。まったく、予定どおりドイツ語の方ははかどったから、今
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