年中に支那語の基礎をやって、来年からエスペラントか、出来ればロシヤ語をやりたいと思っている。
少し悪い癖で先のことばかり考えているが、しかし予定は確実に履行するんだから、その悪い癖を謝してやってもさしつかえないのだ、では又来週だ。鐘紡の争議どうなったかね。失敬。
9
君の「講義」はそんなに「固い」のかね。多分ひどく難しいことを云うのだろう? 俺も一度聞いてみたいものだ。――だが要するに第一の問題は、集会そのものに興味を持たせ、次には君自身に対しても、「個人的」に好意乃至信頼を持たれるようにならなければ何事も始めるわけには行かないだろう。それから僕が一番気にするのは、君が労働者の友達に、日常の実践道徳について忠告せずにはいられないような事になりはしないかということだ。君はその点についても非常に神経質だから――まさか「太陽のない街」の婦人部長のような、話せないおばさんになることもあるまいけれど。――そういうことは第二義的のことで、それが、「第一義的のこと」に差しつかえないかぎり、黙って見ていた方がいいことなんだ。等とまだ色々考えたこともあったが、今世間の有り様が如何なる次第になっているか見当もつかない俺は、うっかりすると頓珍漢なことをいいそうだからこれくらいで止めた。
要するに、君が非常にいい道を歩いているらしいから、非常に愉快だ。だが――僕が此処にいる間は手紙で色々なことを、余り具体的に知らせてくれない方がいいのではないかね? もっとそのかわり一般的なことを知らせてくれたまえ! それから「物価問題」その他が宅下げしてある。モップルの人に、今後時々行って見てくれるように頼んで置いてくれないか。モップルから入れてくれたドイツ語の本は、書き入れがあるので不許可になった。Kから入れてもらったものはKへ返さなければならないだろう。それも頼んでおいてくれ。
監獄の庭は色々なものがゴタゴタと成長し、日毎に丈が伸びて行って賑やかになった。小鳥にとっては此処は安全地帯だと見えて、時々東京には珍しい奴がやって来て鳴いている。俺が中学の一年生の時、聖書を習った女の先生は、丁度今の君と同じ年齢であったことを思い出した。なる程あんなものかなと思った。だが、その時分は、その女の児《こ》を立派な先生だと思って尊敬していたものだ。
10
此の間は、なかな
前へ
次へ
全10ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
若杉 鳥子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング