浅間山麓
若杉鳥子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)木霊《こだま》が

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「てがら」に傍点]
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 落葉松の暗い林の奥で、休みなくかっこうが鳴いている。単調な人なつっこいその木霊《こだま》が、また向こうの山から呼びかけてくる。七月というに、谷川の音に混じって鴬がかしましく饒舌している。然しここでは、鴬も雀程にも珍しく思われない。
 谷あいの繁みをわけてゆくと、一軒の廃屋があった。暗い内部には、青苔のぬらぬらした朽ち果てた浴槽があって、湯が滾々《こんこん》とあふれている。手を触れる者さえなくて、噴泉は樋をつたい、外の石畳に落ち、遠く湯川となって、葦の間を流れてゆく。足を浸すと、ぬるい湯が黄色い繊毛と共に纏わり、硫黄の香が漂う。花はまだ季節が早いのか、燕子花《つばめばな》や、赤い蝿取り草ぐらいしか咲いていない。その間に、この辺の人が焼酎に浸けて喰べるというすぐり[#「すぐり」に傍点]が、碧い透きとおった飴球のような実をつけている。時々野薔薇がむせぶように高い香を送って来た。白樺や落葉松の間
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