の、溶岩の散らばった路を上って行くと、急に平らな丘の上に出て、浅間はもう眼の前に噴煙をあげていた。遠く見れば、浅間はただなだらかで端正に裾をひいているが、近づいて見ると、緑色の上着の胸を寛《ひろ》げて、自己の履歴を語るように、焼け爛れた赤錆色の四角な肌を露出している。
 私の泊まった家は、病院であって宿屋なのである、いえ宿屋で病院だという方が適当かも知れない。余り病院くさくならないように、消毒液でも臭気のしない高価なものを使うとはいっているが、浅間山の頂を前にした古い田舎屋が病棟なのである。朝早くから百姓のお婆さん達が、病児を背負って遠い道を歩いてくる。診察に来たお婆さんがいうには、
「以前はなァあんた、少し重い病人だと長野までゆきやしたが、近頃はナ、盲腸でも何でも此処で手術して貰えるで、へぇみんな、ずんずん達者になりまさァ」
 その有難い院長さんはどんな人かというに、外科手術が多いというから、誰でもあらゆる外科医のタイプを想像してみるだろう。処がそれは、大一番の丸髷に赤い鹿の子のてがら[#「てがら」に傍点]をかけた、たわやかな美人なのである。
「恐いね、女の外科手術なんざァ」泊まって
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