旧師の家
若杉鳥子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)抛《ほう》り出され
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)故郷|枕香《まくらが》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「さっ」に傍点]
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私が故郷の街から筑波山を見て過ごした月日は随分と永いことだった。
その麓には筑波根詩人といわれている横瀬夜雨氏がいた。故長塚節氏がいた。
そこから五六里の距離にある故郷|枕香《まくらが》の里(古名)の青年間にも文学熱が盛んだった。私もいつかそのお仲間に入って詩や歌を作るようになった。そしてその頃河井醉茗氏の主宰していた女子文壇に投書していた。それを機会に横瀬氏から幼稚な汚い原稿を添削して戴いたり、質疑に対して通信教授をして戴いた。その頃夜雨氏には多くの女のお弟子があった。女子文壇は今の文壇に多くの女性作家を送った。その頃の文壇には、自然主義の運動が勃興していた――私はそうした少女時代の追想に耽りながら、結城の街から自動車に揺られていた。
私がまあ横瀬夜雨氏を訪ねたいと思っていたのは何という永い間の宿望だっ
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