で三人許り出て来て玄関の敷台に膝を突いた。
 俥から現れたのは、酸漿《ほおずき》のように赤く肥った中年の僧侶だった。法衣こそは纒っているが、金ぶちの眼鏡の下には慾望そのもののような脂肪《あぶら》ぎった贅肉が盛り上がっていた。
 用事は簡単なのだったから彼女はそれが住職だと知ると、早速来意を告げて、懐中から例の紙幣を取り出した。
 新しい五円紙幣二十枚、括った帯封には、親戚の老人の手で、
[#次行は三字下げ、九字空き地付きで]
一金一百円也    永代経料
[#次行は四字下げ、一字空き地付きで]
× × 寺 殿          × × 家
[#字下げ、地付きここまで]
 と細字で書かれてあった。
 住職は気味の悪い程柔かい物馴れた態度でその金を受け取った。
 円い大きいスタンプのような寺の判を捺した領収書を貰うと彼女はすぐに其処を出た。不浄物を棄てたような身軽さと、親戚の環視の眼から逃れたような気易さとを感じながら、寺の石段を下りたが、先刻から彼女の眼には、死んだ祖母が背を屈めて、物影へ入っては、チャリン、チャリンと音をさせながら、一日中に屹度《きっと》一度、人に隠れて銭勘定をしている
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