》ったり止《や》んだりいつもうっとうしい空《そら》のころで、夜《よる》になるとまっくらで、月《つき》も星《ほし》も見《み》えません。その中であやしい黒《くろ》い雲《くも》がいつどこからわいて来《く》るか、それを見定《みさだ》めるのはなかなかむずかしいことでした。するうち夜中《よなか》近《ぢか》くなると、いつものとおり東《ひがし》の空《そら》からその黒《くろ》い雲《くも》がわいて来《き》たものと見《み》えて、天子《てんし》さまは、おひきつけになって、おこりをおふるい出《だ》しになりました。
 頼政《よりまさ》は黒《くろ》い雲《くも》が出《で》てきたようだとは思《おも》いましたが、一めんにまっくらな空《そら》の中で、何《なに》が何《なん》だかさっぱりわかりません。一生懸命《いっしょうけんめい》心《こころ》の中で八幡大神《はちまんだいじん》のお名《な》をとなえながら、この一の矢《や》を射損《いそん》じたら、二の矢《や》をつぐまでもなく生《い》きては帰《かえ》らない覚悟《かくご》をきめて、まず水破《すいは》という鏑矢《かぶらや》を取《と》って、弓《ゆみ》に番《つが》えました。するうちだんだん紫
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