わ》っていた鬼《おに》が口を出《だ》して、
「いいや、ああはいっても、その場《ば》になると横着《おうちゃく》をきめて出《で》てこないかも知《し》れません。約束《やくそく》を違《ちが》えさせないために、何《なに》か、しち[#「しち」に傍点]に取《と》っておいてはどうでしょう。」
 といいました。
 おかしらは、
「なるほどそれはいいだろう。」
 とうなずきました。
「それでは何《なに》がいいだろう。何《なに》を取《と》り上《あ》げておいたものだろう。」
 と鬼《おに》どもは、わいわい相談《そうだん》をはじめました。
「烏帽子《えぼし》がいい。」という者《もの》もありました。
「斧《おの》はどうだ。」という者《もの》もありました。
 おかしらはみんなの騒《さわ》ぐのを止《と》めて、
「いや、何《なに》よりもいちばん、あのじいさんのほおの瘤《こぶ》を取《と》るのがいいだろう。瘤《こぶ》は福《ふく》のあるものだから、じいさんのいちばんだいじなものに違《ちが》いない。」
 といいました。
 おじいさんは心《こころ》の中《なか》では、「しめた。」と思《おも》いながら、わざとびっくりした風《ふう》をして、
「おやおや、とんでもないことをおっしゃいます。目玉《めだま》を抜《ぬ》かれましても、鼻《はな》を切《き》られましても、この瘤《こぶ》を取《と》ることだけはどうかごかんべん下《くだ》さいまし。長年《ながねん》の間《あいだ》、わたくしが宝《たから》のようにしてぶら下《さ》げている、だいじなだいじな瘤《こぶ》でございますから、これを取《と》り上《あ》げられましては、ほんとうに困《こま》ってしまいます。」
 といいました。
 鬼《おに》のおかしらはこれを聞《き》くと、
「それ見《み》ろ。あのとおり惜《お》しがっている瘤《こぶ》だ。あれに限《かぎ》る、取《と》り上《あ》げておけ。」
 といいました。
 手下《てした》の鬼《おに》はすぐそばへ寄《よ》ってきて、
「それ、とるぞ。」
 といいながら、ぽきりと瘤《こぶ》をねじ切《き》ってしまいました。でも少《すこ》しも痛《いた》くはありませんでした。
 ちょうどその時《とき》、夜《よ》が明《あ》けて、からすがかあかあ鳴《な》きました。
「やあ、大《たい》へん。」
 鬼《おに》どもはびっくりして、立《た》ち上《あ》がりました。
「明日《あす》の晩
前へ 次へ
全8ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング