え》して、一生懸命《いっしょうけんめい》がまんしていましたが、そのうち鬼《おに》どもがおもしろそうに手をたたいて、拍子《ひょうし》をとり出《だ》しますと、もうたまらなくなって、
「ええ、かまうものか。出て踊《おど》ってやれ。食《く》われて死《し》んだらそれまでだ。」
 とすっかり度胸《どきょう》をきめて、腰《こし》にきこりの斧《おの》をさして、烏帽子《えぼし》をずるずるに鼻《はな》の頭《あたま》までかぶったまま、
「よう、こりゃこりゃ。」
 といいながら、ひょっこりおかしらの鬼《おに》の鼻先《はなさき》へ飛《と》び出《だ》しました。
 あんまり出《だ》し抜《ぬ》けだものですから、こんどはおじいさんよりは、鬼《おに》の方《ほう》がびっくりしてしまいました。
「何《なん》だ。何《なん》だ。」
「人間《にんげん》のじじいじゃないか。」
 といいながら、みんなはそう立《だ》ちになって騒《さわ》ぎました。
 おじいさんはもうすましたもので、一生懸命《いっしょうけんめい》、のびたり、ちぢんだり、縦《たて》になり、横《よこ》になり、左《ひだり》へ行き、右《みぎ》へ行き、くるりくるりと木《き》ねずみのように、元気《げんき》よくはね回《まわ》りながら、
「よう、こりゃこりゃ。」
 とお酒《さけ》に酔《よ》ったような声《こえ》を出《だ》して、さもおもしろそうに踊《おど》りました。
 だんだん鬼《おに》どももみんな釣《つ》り込《こ》まれて、いっしょに手拍子《てびょうし》を合《あ》わせながら、
「うまいぞ、うまいぞ。」
「しっかりやれ。」
 こんなことをいいながら、はちきれそうな大笑《おおわら》いをして、おじいさんの踊《おど》りに夢中《むちゅう》になっていました。
 踊《おど》りがすむと、おかしらも感心《かんしん》して、おじいさんに、
「こんなおもしろい踊《おど》りははじめてだ。じいさん、明日《あす》の晩《ばん》も来《き》て、踊《おど》りを踊《おど》るのだぞ。」
 といいました。
 おじいさんはとくいになって、
「へえへえ、おいいつけがなくともきっとまいりますよ。今晩《こんばん》は何《なに》しろ急《きゅう》なことで、おけいこをして来《き》ませんでしたから、明日《あす》の晩《ばん》までには、ゆっくりおさらいをしてまいりましょう。」
 こういうと、その時《とき》右手《みぎて》の三ばんめに座《す
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