ません。
 やがておかしらは、
「さあだれか歌《うた》を歌《うた》う者《もの》はないか。踊《おど》りを踊《おど》る者《もの》はないか。」
 といって、そこらを見回《みまわ》しました。
 やがておかしらのそばに座《すわ》っていた鬼《おに》が、出《だ》し抜《ぬ》けに大きな声《こえ》で歌《うた》を歌《うた》い出《だ》しました。するとさっきの若《わか》い鬼《おに》も、すその方《ほう》から前《まえ》へ飛《と》び出《だ》してきて、さんざん踊《おど》りを踊《おど》って引《ひ》っ込《こ》みました。それから代《か》わる代《が》わる下座《しもざ》の方《ほう》から、一人一人《ひとりひとり》違《ちが》った鬼《おに》が立《た》ってきて、同《おな》じように踊《おど》りを踊《おど》りました。中《なか》には上手《じょうず》に踊《おど》ってほめられる者《もの》もあれば、ぶきような踊《おど》り方《かた》をして、みんなに笑《わら》われる者《もの》もありました。踊《おど》りがすむたんびに、ひんながぱちぱち手をたたいて、
「よいよい。」
 とはやしました。
 おかしらの鬼《おに》はその時《とき》、さもゆかいそうに高笑《たかわら》いをして、
「あッは、あッは。おもしろい、おもしろい。今夜《こんや》のようなゆかいな宴会《えんかい》ははじめてだ。だがついでにだれか、もっとめずらしい踊《おど》りを踊《おど》って見《み》せる者《もの》はないか。」
 といいました。
 おじいさんはさっきから、木のうろの中で体《からだ》をこごめながら、それでもこわいもの見《み》たさに、首《くび》だけのばして外《そと》の様子《ようす》をのぞいていました。そのうちに、いったいがひょうきんなおじいさんのことですから、いつかこわいのも何《なに》も忘《わす》れてしまって、見世物《みせもの》でも見《み》ている気《き》で、おもしろがって鬼《おに》の踊《おど》りを見物《けんぶつ》していました。するうちに自分《じぶん》もだんだん浮《う》かれ出《だ》してきて、今《いま》のおかしらの鬼《おに》のいったことばが耳《みみ》に入《はい》ると、自分《じぶん》もひとつ飛《と》び出《だ》して、踊《おど》りを踊《おど》ってみたくなりました。
 しかしうっかり飛《と》び出《だ》していって、一口《ひとくち》にあんぐりやられては大《たい》へんだと一|度《ど》は思《おも》い返《か
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