来《き》た山奥《やまおく》まで上《あ》がって行きました。そこに着《つ》いてみると、おかあさんはちゃんと座《すわ》ったまま、目をつぶっていました。お百姓《ひゃくしょう》はその前《まえ》に座《すわ》って、
「おかあさんを捨《す》てたのはやはりわたくしが悪《わる》うございました。こんどはどんなにしてもおそばについてお世話《せわ》をいたしますから。」
 といって、おかあさんをまたおぶって山を下《くだ》りました。
 それにしてもこのままおけば、いつか役人《やくにん》の目にふれるに違《ちが》いありません。お百姓《ひゃくしょう》はいろいろ考《かんが》えたあげく、床《ゆか》の下に穴倉《あなぐら》を掘《ほ》って、その中におかあさんをかくしました。そして毎日《まいにち》三|度《ど》三|度《ど》ごぜんを運《はこ》んで、
「おかあさん、御窮屈《ごきゅうくつ》でも、がまんをして下《くだ》さい。」
 と、いろいろにいたわりました。これでさすがの役人《やくにん》も気《き》がつかずにいました。

     二

 それからしばらくすると、ある時《とき》お隣《となり》の国《くに》の殿様《とのさま》から、信濃国《しなのの
前へ 次へ
全17ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング