ょうて》を地《ち》につけて、
「おかあさん、堪忍《かんにん》して下《くだ》さい。お月見《つきみ》にといってあなたを誘《さそ》い出《だ》して、こんな山奥《やまおく》へ連《つ》れて来《き》たのは、今年《ことし》はあなたがもう七十になって、いつ島流《しまなが》しにされるか分《わ》からないので、せめて無慈悲《むじひ》な役人《やくにん》の手《て》にかけるよりはと思《おも》ったからです。どうぞがまんして下《くだ》さい。」
 といいました。
 するとおかあさんは驚《おどろ》いた様子《ようす》もなく、
「いいえ、わたしには何《なに》もかも分《わ》かっていました。わたしはあきらめていますから、お前《まえ》は早《はや》くうちへ帰《かえ》って、体《からだ》を大事《だいじ》にして働《はたら》いて下《くだ》さい。さあ、道《みち》に迷《まよ》わないようにして早《はや》くお帰《かえ》り。」
 といいました。
 お百姓《ひゃくしょう》はおかあさんにこういわれると、よけい気《き》の毒《どく》になって、いつまでもぐずぐず帰《かえ》りかねていましたが、おかあさんに催促《さいそく》されて、すごすごと帰《かえ》って行きました。
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