」
といって、おかあさんを背中《せなか》におぶって出かけました。
さびしい野道《のみち》を通《とお》り越《こ》して、やがて山道《やまみち》にかかりますと、背中《せなか》におぶさりながらおかあさんは、道《みち》ばたの木の枝《えだ》をぽきんぽきん折《お》っては、道《みち》に捨《す》てました。お百姓《ひゃくしょう》はふしぎに思《おも》って、
「おかあさん、なぜそんなことをするのです。」
とたずねましたが、おかあさんはだまって笑《わら》っていました。
だんだん山道《やまみち》を登《のぼ》って、森《もり》を抜《ぬ》け、谷《たに》を越《こ》えて、とうとう奥《おく》の奥《おく》の山奥《やまおく》まで行きました。山の上はしんとして、鳥《とり》のさわぐ音《おと》もしません。月《つき》の光《ひかり》ばかりがこうこうと、昼間《ひるま》のように照《て》り輝《かがや》いていました。
お百姓《ひゃくしょう》は草《くさ》の上におかあさんを下《お》ろして、その顔《かお》をながめながら、ほろほろ涙《なみだ》をこぼしました。
「おや、どうおしだ。」
とおかあさんがたずねました。お百姓《ひゃくしょう》は両手《り
前へ
次へ
全17ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング