といって、おかあさんを背中《せなか》におぶって出かけました。
 さびしい野道《のみち》を通《とお》り越《こ》して、やがて山道《やまみち》にかかりますと、背中《せなか》におぶさりながらおかあさんは、道《みち》ばたの木の枝《えだ》をぽきんぽきん折《お》っては、道《みち》に捨《す》てました。お百姓《ひゃくしょう》はふしぎに思《おも》って、
「おかあさん、なぜそんなことをするのです。」
 とたずねましたが、おかあさんはだまって笑《わら》っていました。
 だんだん山道《やまみち》を登《のぼ》って、森《もり》を抜《ぬ》け、谷《たに》を越《こ》えて、とうとう奥《おく》の奥《おく》の山奥《やまおく》まで行きました。山の上はしんとして、鳥《とり》のさわぐ音《おと》もしません。月《つき》の光《ひかり》ばかりがこうこうと、昼間《ひるま》のように照《て》り輝《かがや》いていました。
 お百姓《ひゃくしょう》は草《くさ》の上におかあさんを下《お》ろして、その顔《かお》をながめながら、ほろほろ涙《なみだ》をこぼしました。
「おや、どうおしだ。」
 とおかあさんがたずねました。お百姓《ひゃくしょう》は両手《り
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