たりでおばあさんをかかえて、住居《すまい》までおくっていってやろうといいました。道づれの知らない人は、はいのうをあけて、小箱をだして、いや、このなかにこうやくがはいっている、これをつければ、すぐと足のきずがなおって、もとどおりになるから、ひとりでうちへかえれて、足をくじいたことなぞないようになるといいました。そして、そのかわりに、といっても、なあに、その前掛にくるんでいる三本のむちをもらうだけでいいのだがね、といいました。
「とんだ高い薬代《やくだい》だの。」と、おばあさんはいって、なぜかみょうに、あたまをふりました。
 それで、なかなか、このむちを手ばなしたがらないようすでしたが、くじいた足のままそこにたおれていることも、ずいぶんらくではないので、とうとう、むちをゆずることになりました。そのかわり、ほんのちょっぴりくすりをなすったばかりで、このおばあさん、すぐぴんと足が立って、まえよりもたっしゃに、しゃんしゃんあるいていきました。これはまさしく、このこうやくのききめでした。でも、それだけに、薬屋などでめったに手にはいるものではありません。
「そんなむちみたいなもの、なんにするんです。
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