、ひと切れずつ、切ってとっていけるようにしました。噴水からは、とびきり上等のぶどう酒がふきだしていました。パン屋で一シリングの堅パンひとつ買うと、大きなビスケットを六つ、しかも乾《ほし》ぶどうのはいったのを、お景物《けいぶつ》にくれました。
 晩になると、町じゅうあかりがつきました。兵隊はどんどん祝砲を放しますし、男の子たちはかんしゃく玉をぱんぱんいわせました。お城では、のんだり、たべたり、祝杯をぶつけあったり、はねまわったり、紳士も、うつくしい令嬢たちも、組になって、ダンスをして、そのうたう歌が遠方まできこえて来ました。

[#ここから3字下げ]
ダンス輪おどり大すきな
みんなきれいなむすめたち、
まわるよまわるよ糸車。
くるりくるりと踊り子むすめ、
おどれよ、はねろよ、いつまでも、
くつのかかとのぬけるまで。
[#ここで字下げ終わり]

 さて、ご婚礼はすませたものの、お姫さまは、まだ、もとの魔法つかいのままでしたから、ヨハンネスをまるでなんともおもっていませんでした。そこで、旅なかまは心配して、れいのはくちょう[#「はくちょう」に傍点]のつばさから三本のはねをぬきとって、それと、ほんのちよっぴり、くすりの水を入れた小びんをヨハンネスにさずけました。そうして、おしえていうのには、水をいっぱいみたした大きなたらいを、お姫さまの寝台のまえにおく、お姫さまが、知らずに寝台へ上がるところを、うしろからちょいと突けばお姫さまは水のなかにおちる。たらいの水には、前もって、三本の羽をうかして、くすりの水を二、三滴たらしておいて、その水に三どまで、お姫さまをつけて、さて、引き上げると、魔法の力がきれいにはなれて、それからは、ヨハンネスをだいじにおもうようになるだろうというのです。
 ヨハンネスは、おしえられたとおりにしました。王女は水に落ちたとき、きゃっとたかいさけび声を立てたとおもうと、ほのおのような目をした、大きな、黒いはくちょう[#「はくちょう」に傍点]になって、おさえられている手の下で、ばさばさやりました。二どめに、水からでてくると、黒いはくちょう[#「はくちょう」に傍点]はもう白くなっていて、首のまわりに、黒い輪が、二つ三つのこっているだけでした。ヨハンネスは、心をこめて神さまにお祈をささげながら、三ど、はくちょう[#「はくちょう」に傍点]に水をあびせました。そのとた
前へ 次へ
全26ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング