は、みずうみの魚に投げてやりましたが、首だけは、水でよくあらって、絹のハンケチにしっかりくるんで、宿までかかえて、もってかえって、ゆっくり床《とこ》に休んで寝ました。
そのあくる朝、旅なかまは、ヨハンネスに、ハンケチの包をさずけて、王女が、いよいよじぶんのかんがえているものはなにかといって問いかけるまで、けっして、むすび目をほどいてはいけないといいました。
お城の大広間には、ぎっしり人がつまって、それはまるで、だいこんをいっしょにして、たばにくくったようでした。評定官《ひょうじょうかん》は、れいのとおり、ながながといすによりかかって、やわらかなまくらをあたまにあてがっていました。老王さまは、すっかり、あたらしいお召ものに着かえて、金のかんむりもしゃくも、ぴかぴかみがき立てて、いかめしいごようすでした。それにひきかえ、お姫さまのほうは、もうひどく青い顔をして、おとむらいにでもいくような、黒ずくめの服でした。
「なにを、わたしはかんがえていますか。」
王女は、ヨハンネスにたずねました。
すぐ、ヨハンネスは、ハンケチのむすび目をほどきました。すると、いきなり、魔法つかいの首が、目にはいったので、たれよりもまずじぶんがぎょっとしました。あんまり、すごいものをみせられて、みんなもがたがたふるえだしました。そのなかで、王女はひとり、石像のようにじいんとすわり込んだなり、ひとこともものがいえませんでした。それでも、やっと立ち上がって、ヨハンネスに手をさしのべました。なにしろ、みごとにいいあてられてしまったのです。王女は、もう、たれの顔をみようともしないで、大きなため息ばかりついていました。
[#挿絵(fig42382_03.png)入る]
「さあ、あなたは、わたしの夫《おっと》です。今晩、式をあげましょう。」
「そうしてくれると、わしもうれしい。」と、お年よりの王さまはいいました。「ぜひ、そういうことにしよう。」
みんなは、万歳をとなえました。近衛《このえ》の兵隊は、音楽をやって、町じゅうねりあるきました。お寺の鐘は鳴りだしますし、お菓子屋のおかみさんたちは、お砂糖人形の黒い喪《も》のリボンをどけました。どこにもここにも、たいへんなよろこびが、大水のようにあふれました。三頭の牛のおなかに、小がもやにわとりをつめたまま、丸焼にしたものを、市場のまん中にもちだして、たれでも
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