ん、はくちょう[#「はくちょう」に傍点]はうつくしいお姫さまにかわりました。お姫さまは、まえよりもなおなおうつくしくなって、きれいな目にいっぱい涙をうかべながら、魔法をといてくれたお礼をのべました。
 その次の朝、老王さまは、御殿じゅうの役人のこらずをひきつれて出ておいでになりました。そこで、お祝をいいにくるひとたちが、その日はおそくまで、あとからあとからつづきました。いちばんおしまいに来たのは、旅なかまでしたが、もうすっかり旅じたくで、つえをついて、はいのうをしょっていました。ヨハンネスは、その顔をみると、なんどもなんどもほおずりして、もうどうか旅なんかしないで、このままここにいてください。こんなしあわせな身分になったのも、もとはみんなあなたのおかげなのだからといいました。けれども、旅なかまは、かぶりをふって、でも、あくまでやさしい、人なつこいちょうしでいいました。
「いいや、いいや、わたしのかえっていく時が来たのだ。わたしはほんの借をかえしただけだ。きみはおぼえていますか、いつか、わるものどものためにひどいはずかしめを受けようとした死人のことを。[#「。」は底本では欠落]あのとききみは、持っていたもののこらず、わるものどもにやって、その死人をしずかに墓のなかに休ませてくれましたね。その死人が、わたしなのですよ。」
 こういうがはやいか、旅なかまの姿は消えました。
 さて、ご婚礼のおいわいは、まるひと月もつづきました。ヨハンネスと王女とは、もうおたがいに、心のそこから好きあっていました。老王さまは、もう毎日、たのしい日を送っておいでになりました。かわいらしいお孫さんたちを、かわるがわるおひざの上にのせて、かってにはねまわらせたり、しゃくをおもちゃにしてあそばせたりなさいました。ヨハンネスはかわりに、王さまになって、王国のこらずおさめることになりました。
[#挿絵(fig42382_04.png)入る]



底本:「新訳アンデルセン童話集第一巻」同和春秋社
   1955(昭和30)年7月20日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※底本中、*で示された語句の訳註は、当該語句のあるページの下部に挿入されていますが、このファイルでは当該語句のある段落のあとに、5字下げで挿入しました。

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