あたるたんびにこういいました。なに、ぶたれるのはあたりまえです。それでもやっと山まで来て、とんとん戸をたたきましたとたんに、ごろごろひどいかみなりの音がして、山はぱっくり口をあきました。王女はなかへはいりました。旅なかまもつづいてはいりました。でも、姿がみえなくしてあるので、たれも気がつきません。ふたりがながい廊下《ろうか》をとおっていくと、両側の壁が奇妙にきらきら光りました。それは、なん千とない火ぐもが、壁の上をぐるぐるかけまわって、火花のように光るためでした。それから、金と銀でつくってある大広間にはいりました。そこには、ひまわりぐらい大きい赤と青の花が、壁できらきらしていました。でもその花をつむことはできません。というのは、その花のじくがきみのわるい毒へびで、花というのも、その大きな口からはきだすほのおだからです。天井《てんじょう》には、いちめん、ほたるが光っているし、空いろのこうもりが、うすいつばさをばたばたさせていました。じつになんともいえないかわったありさまでした。ゆかのまん中に、王さまのすわるいすがひとつすえてあって、これを四頭の馬のがい骨が背中にのせていました。その馬具はまっ赤な火ぐもでした。さて、そのいすは、乳いろしたガラスで、座ぶとんというのも、ちいさな黒ねずみがかたまって、しっぽをかみあっているものでした。いすの上に、ばらいろのくもの巣でおった天蓋《てんがい》がつるしてあって、それにとてもきれいなみどり色したかわいいはえ[#「はえ」に傍点]が、宝石をちりばめたようにのっていました。ところで、王冠をかぶって、王しゃくをかまえて、にくらしい顔で、王さまのいすにじいさんの魔法つかいが、むんずと座をかまえていました。魔法つかいはそのとき、王女のひたいにせっぷんすると、すぐわきのりっぱないすにかけさせました。やがて音楽がはじまりました。大きな黒こおろぎが、ハーモニカをふいて、ふくろうが太鼓のかわりに、はねでおなかをたたきました。それは、とぼけた音楽でした。かわいらしい、豆粒のような小鬼どもは、ずきんに鬼火をつけて、広間のなかをおどりまわりました。こんなにみんないても、たれにも旅なかまの姿はみえませんでしたから、そっと王さまのいすのうしろに立ってて、なにもかもみたりきいたりしました。さて、そこへひとかど、もったいらしく気どって、魔法御殿のお役人や女官たちが、
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