わ》を振《ふ》り上げて、打《う》ち殺《ころ》そうとしますと、雷《かみなり》は気《き》がついて、あわててお百姓《ひゃくしょう》を止《と》めました。
「まあ、そんな乱暴《らんぼう》なまねをしないで下《くだ》さい。つい雲《くも》を踏《ふ》みはずして落《お》ちてきただけで、何《なに》もあだをするのではありませんから、どうぞ勘弁《かんべん》して下《くだ》さい。」
 こう雷《かみなり》はいって、手《て》を合《あ》わせました。お百姓《ひゃくしょう》は、
「雷《かみなり》、雷《かみなり》って、どんなにこわいものかと思《おも》ったら、一|度《ど》落《お》ちると、からきし、いくじのないものだ。」
 と思《おも》って、
「じゃあかわいそうだから助《たす》けてやる。だがこんどから落《お》ちることはならないぞ。そのたんびにびっくりするからな。」
 といって、許《ゆる》してやりました。
 すると雷《かみなり》は大《たい》そうよろこんで、
「どうもありがとう。何《なに》かお礼《れい》をさし上《あ》げたいが、あいにく何《なに》も持《も》って来《き》ませんでした。何《なん》でもほしい物《もの》があったらいって下《くだ》さい。空《そら》に帰《かえ》ったら、きっとおくって上《あ》げますから。」
 といいました。
 するとお百姓《ひゃくしょう》はしばらく考《かんが》えていましたが、
「さあ、何《なに》かほしい物《もの》といったところで、このとおり体《からだ》は丈夫《じょうぶ》で、毎日《まいにち》三|度《ど》のごぜんを食《た》べて、働《はたら》いていれば、何《なに》も不足《ふそく》なことはないが、ただ一つ六十になって、いまだに子供《こども》が一人《ひとり》もない。これだけはいつも不足《ふそく》に思《おも》っている。」
 といいますと、
「じゃあさっそく子供《こども》を一人《ひとり》さずけて上《あ》げましょう。そのうちお前《まえ》さんのおかみさんにふしぎな強《つよ》い子が生《う》まれるでしょうから、それはわたしがおくってあげたのだと思《おも》って下《くだ》さい。その代《か》わり一つお願《ねが》いがあります。どうぞくすのきで舟《ふね》をこしらえて、水《みず》をいっぱい入《い》れて、その中にささの葉《は》を浮《う》かべて下《くだ》さい。」
 といいました。
「何《なん》だ、そのくらいなことわけはない。その代《か》
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