と聞《き》きますと、おばあさんは、
「綱《つな》のおばが、摂津《せっつ》の国《くに》渡辺《わたなべ》からわざわざたずねて来《き》ました。」
といいました。
家来《けらい》は 気《き》の毒《どく》そうに、
「それはあいにくでございました。主人《しゅじん》はものいみでございまして、今晩《こんばん》一晩《ひとばん》立《た》つまでは、どなたにもお会《あ》いになりません。」
といいました。するとおばあさんは悲《かな》しそうな声《こえ》で、
「綱《つな》は小《ちい》さい時《とき》母《はは》に別《わか》れたので、母親《ははおや》の代《か》わりにわたしがあの子を育《そだ》ててやったのです。それが今《いま》はえらい侍《さむらい》になったといって、せっかく遠方《えんぽう》からたずねて来《き》ても会《あ》ってはくれない。このごろはめっきり年《とし》をとって、こんどまた会《あ》おうといっても、それまで生《い》きていられるかおぼつかない。ああ、ざんねんなことだ。」
といいながら、とぼとぼ帰《かえ》って行こうとしました。
綱《つな》は奥《おく》でおばさんのいうことをすっかり聞《き》いていました。聞《
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