かぶら矢のようにうなってとびつづけました。
でもなにしろ、いもうとひとりつれているのですから、おくれがちで、いつものようにはとべません。するうち、いやなお天気になって来て、夕暮もせまって来ました。エリーザはしずみかけているお日さまをながめて、まだ海のなかにさびしく立っている岩というのが目にはいらないものですから、心配そうな顔をしていました。はくちょうたちがよけいはげしく羽ばたきしはじめたようにおもわれました。ああ、おにいさまたちみんなが[#「みんなが」は底本では「みんなか」]、おもいきって早くとぶこともできないのは、エリーザのためだったのです。やがてお日さまがしずむと、みんなは人間にかえって滝のなかに落ちておぼれなければなりません。そのとき、エリーザはこころの底から、お祈のことばをとなえました。でもまだ岩はみつかりません。まっくろな雲がむくむく近よって来ました。やがてそれは大きなきみわるく黒い雲の山になって、まるで、鉛のかたまりがころがってくるようでした。ぴかりぴかり稲妻《いなづま》が、しきりなしに光りだして来ました。
いよいよお日さまが海のきわまで落ちかけて来ました。エリーザの胸は、わなわなふるえました。そのときはくちょうたちは、まっしぐらに、まるで、さかさになって落ちくだるいきおいでおりて行きました。はっとおもうとたん、またふと浮きあがりました。お日さまは、半分もう水の下にかくれました。でも、そのときはじめて目の下に小さい岩をみつけました。それはあざらし[#「あざらし」に傍点]というけものはこんなものかとおもわれるほどの大きさで、水のうえにちょっぴり顔をだしていました。お日さまはみるみる沈んでいきました。とうとうそれがほんの星ぐらいにちいさくみえたとき、エリーザの足はしっかりと大地につきました。
お日さまは紙きれが燃えきれて、さいごにのこった火花のようにみえてふと消えてしまいました。おにいさまたちは、手をとりあってエリーザのまわりに立っていました。でも、それだけしか場所はなかったのです。波はたえず岩にぶつかって、しぶきのようにエリーザのあたまにふりそそぎました。空はしっきりなしにあかあかともえる火で光って、ごろごろ、ごろごろ、たえず音がして、かみなりはなりつづきました。でも、きょうだいおたがいにしっかりと手をとりあって、さんび歌をうたいますと、それがなぐさめにもなり、げんきもついて来ました。
明け方のうすあかりでみると、空気はすみきって風もおだやかでした。お日さまがのぼるとすぐ、はくちょうたちはエリーザをつれて、この島をぱっととび立ちました。海はまだすごい波が立っていました。やがて高く舞り上がって、下をみると、紺青《こんじょう》の海のうえに立つ白いあわは、なん百万と知れないはくちょうが、水のうえでおよいでいるようでした。
お日さまがいよいよ高く高くのぼったとき、エリーザは目のまえに、山ばかりの国が半分空のうえに浮いているのをみつけました。その山のいただきには、まっしろに光る氷のかたまりがそびえ、そのまんなかに、なんマイルもあろうとおもわれるお城が立っていて、そのまわりにきらびやかな柱がいくつもいくつもならんでいました。エリーザはこれがみんなのいこうとする国なのかとたずねました。けれどはくちょうたちは首をふりました。なぜというにエリーザの今みたのは、しんきろう[#「しんきろう」に傍点]といってりっぱに見えても、それはたえずかわっている雲のお城で、人のいけるところではなかったのです。なるほどエリーザがみつめているうちに、山も林もお城もくずれてしまって、そのかわりに、こんどは、どれもおなじようなりっぱなお寺が、二十も高い塔やとがった窓をならべていました。なんだかそこからオルガンがひびいてくるような気がしましたが、でもそれは海鳴りの音をききちがえたものでした。やがてお寺のすぐそばまでいきますと、みるみるそれは艦隊になって、海をわたっていきました。でもよくながめると、それもただ海の上を霧がはっているだけでした。そんなふうに、しじゅう目のまえにかわったまぼろしを見ながらとんでいくうちに、とうとう目ざすほんものの国をみつけました。そこには、うつくしい青い山がそびえて、すぎ林が茂って、町もあり、お城もありました。お日さまがまだ高いうちに、大きなほら穴のまえの岩のうえにおりました。そこにはやわらかなみどり色のつる草が、縫いとりした壁かけのようにうつくしくからんでいました。
「さあ、ここで、今夜はおまえもどんな夢をみるだろうね。」と、末のおにいさまがいって、いもうとのねべやをみせてくれました。
「どうか、神さまが夢で、どうしたらおにいさまたちをすくって、もとの姿にかえしてあげられるかおしえてくださるといいのですわ――。」と、いもう
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