とはこたえました。
このかんがえが、しっきりなし、エリーザの心にはたらいていました。それでエリーザは神さまのお助けを熱心にいのりました。それはねむっているあいだもいのりつづけました。するうち、エリーザはたかく空のうえに舞い上がって、しんきろうの雲のお城までもとんでいったようにおもいました。すると、うつくしいかがやくような妖女《ようじょ》がひとり、おむかえにでて来ました。ところでその妖女が、あの森のなかでいちごの実をくれて、金のかんむりをあたまにのせたはくちょうの話をしてくれたおばあさんによくにていました。
「おにいさまたちは、もとの姿にもどれるだろうよ。」と、その妖女《ようじょ》はいいました。「でも、おまえさんにそこまでの勇気と辛抱があるかい。ほんとうに、水はおまえのきゃしゃな手よりもやわらかだ。けれどもあのとおり石のかたちを変える。でもそれをするには、おまえさんの指がかんじるような痛みをかんじるわけではない。あれには心がない。おまえさんがこらえなければならないような苦しみをうけることもない。だからおまえさん、そら、あたしが手に持っているイラクサをごらん。こういう草はおまえさんが眠っているほら穴のぐるりにもたくさん生えているのだよ。その草と、お寺の墓地に生えているイラクサだけがいまおまえさんの役に立つのだからね。それは、おまえさんの手をひどく刺して、火ぶくれにするほど痛かろうけれど、がまんして摘みとらなければならないだよ。そのイラクサをおまえさんの足で踏みちぎって、それを麻のかわりにして、それでおまえさんは長いそでのついたくさりかたびらを十一枚編まなければならない。そうしてそれを十一羽のはくちょうに投げかければ、それで魔法はやぶれるのだよ。でもよくおぼえておいでなさい。おまえさんがそのしごとをはじめたときから、それができ上がるまで、それはなん年かかろうとも、そのあいだ、ちっとも口をきいてはならないのですよ。おまえきんの口から出たはじめてのことばが、もうすぐおにいさまたちの胸を短刀のかわりにさすだろう。あの人たちのいのちは、おまえさんの舌しだいなのだ。それをみんなしっかりと心にとめておぼえておいでなさいよ。」
こういって、妖女《ようじょ》はエリーザの手をイラクサでさわりました。それはもえる火のようにあつかったので、エリーザはびくりとして目がさめました。すると、もう、そとはかんかんあかるいまひるでした。ねむっていたすぐそばに、夢のなかでみたとおなじようなイラクサが生えていました。エリーザはひざをついて、神さまにお礼のお祈をしました。それからほら穴をでて、しごとにかかりました。
エリーザはきゃしゃな手で、いやらしいイラクサのなかをさぐりました。草は火のようにあつく、エリーザの腕をも手首をも、やけどするほどひどく刺しました。けれどもそれでおにいさまたちをすくうことができるなら、よろこんで痛みをこらえようとおもいました。それからつみ取ったイラクサをはだしでふみちぎって、みどり色の麻をそれから取りました。
お日さまがしずむと、おにいさまたちはかえって来ました。いもうと[#「いもうと」は底本では「いもう」]がおし[#「おし」に傍点]になったのをみて、みんなびっくりしました。これもわるいまま母がかわった魔法をかけたのだろうとおもいました。でも、いもうとの手をみて、じぶんたちのためにしてくれているのだとわかると、末のおにいさまは泣きました。このおにいさまの涙のしずくが落ちると、もう痛みがなくなって、手の上のやけどのあとも消えてしまいました。
エリーザは夜もせっせと仕事にかかっていました。もうおにいさまたちをすくいだすまでは、いっときもおちつけないのです。そのあくる日も一日、はくちょうたちがよそへとんで行っているあいだ、エリーザはひとりぼっちのこっていました。けれどこのごろのように時間の早くたつことはありません。もうくさりかたびらは一枚でき上がりました。こんどは二枚目にかかるところです。
そのとき猟《りょう》のつの笛が山のなかできこえました。エリーザはおびえてしまいました。そのうちつの笛の音はずんずん近くなって。猟犬のほえる声もきこえました。エリーザはおどおどしながら、ほら穴のなかににげこんで、あつめてとっておいたイラクサをひと束にたばねて、その上に腰をかけていました。
まもなく、大きな犬が一ぴき、やぶのなかからとび出して来ました。それから二ひき、三びきとつづいてとび出して来て、やかましくほえたてました。いったんかけもどってはまたかけ出して来ました。そのすぐあとから、猟のしたくをした武士たちが、のこらずほら穴のまえにいならびました。そのなかでいちばんりっぱなようすをした人が、この国の王さまでした。王さまはエリーザのほうへつかつかとす
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