せと編んでいました。いよいよ死刑になりにいく道みちも、やりかけたしごとをやめようとはしませんでした。十枚のくさりかたびらは足の下にありました。いま十一枚目をこしらえているところなのです。人民たちはあつまって来て、口ぐちにあざけりました。
「見ろ、魔女がなにかぶつぶついっている。さんびかの本ももっていやしない。どうして、まだいやな魔法をやっているのだ。あんなもの、ばらばらにひき裂いてしまえ。」
こういって、みんなひしひしとそばへ寄って来て、くさりかたびらを引き裂こうとしました。そのとき、十一羽の野のはくちょうがさあッとまいおりました。馬車のうえにとまって、エリーザをかこんで、つばさをばたばたやりました。すると群衆はおどろいてあとへ引きました。
「あれは天のおさとしだ。きっとあの女には罪はないのだ。」と、おおぜいのものがささやきました。けれど、たれもそれを大きな声ではっきりといいきるものはありませんでした。
そのとき、役人が来て、[#「、」は底本では「。」]エリーザの手をおさえました。そこで、エリーザはあわてて、十一枚のくさりかたびらをはくちょうたちのうえになげかけました。すると、すぐ十一人のりっぱな王子が、すっとそこに立ちました。けれどいちばん末のおにいさまだけは片手なくって、そのかわりにはくちょうの羽根をつけていました。それはくさりかたびらの片そでが足りなかったからでした。もうひといきで、みんなでき上がらなかったのです。
「さあ、もうものがいえます。」と、エリーザはいいました。「わたくしに罪はございません。」
すると、いま目の前におこった出来事を見た人民たちはとうといお上人さまのまえでするように、いっせいにうやうやしくあたまを下げました。けれどもエリーザは死んだもののようになって、おにいさまたちの腕にたおれかかりました。これまでの張りつめた心と、ながいあいだの苦しみが、ここでいちどにきいて来たのです。
「そうです。エリーザに罪はありません。」と、いちばんうえのおにいさまがいいました。
そこで、このおにいさまは、これまであったことをのこらず話しました。話しているあいだに、なん百万というばら[#「ばら」に傍点]の花びらがいちどににおいだしたような香りが、ぷんぷん立ちました。仕置柱のまえにつみあげた火あぶりの薪に、一本一本根が生えて、枝がでて、花を咲かせたのでござ
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