く夜になれば、この世のみおさめだとおもっていました。でも、しごとはもうひといきでしあがります。おにいさまたちはしかもそこへ来ているのです。
大僧正は王さまと約束して、おわりのときまで、エリーザのそばについていることにしました。それで、このときそばへ寄って来て、そのことをいうと、エリーザは首をふって、目つきと身ぶりとで、どうかでていってもらいたいとたのみました。今夜こそしごとをしあげてしまおう。それでなければせっかくいままでにながしたなみだも、苦しみも、ねむらない夜を明かしたことも、みんなむだになってしまうのです。大僧正はいじのわるい、のろいのことばをのこしてでていきました。でもエリーザはじぶんになんの罪もないことを知っていました。そこでかまわずしごとをつづけました。
ちいさなハツカネズミが、ちょろちょろゆかの上をかけまわって、イラクサを足のところまでひいいてきてくれました。エリーザのお手つだいをしてくれるつもりでした。すると、ツグミも窓の格子《こうし》の所にとまって、ひとばんじゅう、一生けんめい、おもしろい歌をうたって、気をおとさないようにとはげましてくれました。
まだそとは、夜明けまえのうすあかりでした。もう一時間たたなければ、お日さまはのぼらないでしょう。そのとき、十一人のきょうだいは、お城の門のところへ来て、王さまにお目どおりねがいたいとたのみました。けれどもまだ夜があけないのだから、そんなことはできないといわれました。王さまはねむっていらっしゃる、それをおさまたげしてはならないのだというのです。それでもきょうだいはたのんだり、おどかしたりしました。近衛《このえ》の兵隊がでて来ました。いや、そのうちに王さままででておいでになって、どういうわけかとおたずねになりました。するともう、きょうだいたちの姿はみえませんでした。ただ十一羽の野のはくちょうが、お城の上をとびかけって行きました。
人民たちがのこらず町の門にあつまって来て、魔女の焼きころされるところをみようとひしめきあいました。よぼよぼのやせ馬が一頭、罪人ののる馬車をひいてきました。やがてエリーザはそまつな麻の着物を着せられました。あのうつくしい髪の毛は、きれいな首筋にみだれたまま下がっていました。ほおは死人のように青ざめでいました。くちびるはかすかにうごいていました。そのくせ指はまだみどり色の麻をせっ
前へ
次へ
全22ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング