《と》っておいでになりました。」
と言《い》ったそうでございます。
五
太子《たいし》のお妃《きさき》は膳臣《かしわで》の君《きみ》といって、それはたいそう賢《かしこ》くてお美《うつく》しい方《かた》でしたから、御夫婦《ごふうふ》のお仲《なか》もおむつましゅうございました。ある時《とき》ふと太子《たいし》はお妃《きさき》に向《む》かって、
「お前《まえ》とは長年《ながねん》いっしょにくらして来《き》たが、お前《まえ》はただの一言《ひとこと》もわたしの言葉《ことば》に背《そむ》かなかった。わたしたちはしあわせであったと思《おも》う。生《い》きているうちそうであったから、死《し》んでからも同《おな》じ日に、同《おな》じお墓《はか》の中に葬《ほうむ》られたいものだ。」
とおっしゃいました。お妃《きさき》は涙《なみだ》をお流《なが》しになりながら、
「どうしてそんな悲《かな》しいことをおっしゃるのでございますか。このさき百|年《ねん》も千|年《ねん》も生《い》きていて、おそばに仕《つか》えたいと、わたくしは思《おも》っているのでございますのに。」
とおっしゃいました。けれ
前へ
次へ
全22ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング